プロが使う国産溶剤系塗料4選を徹底比較|鈑金塗装職人が現場目線で解説

塗料ってどれも同じじゃないの?ブランドで何がそんなに変わるの?

全然違います。同じ色でも、塗料が変わればボカシの感覚も乾きのタイミングも別物。私自身、海外ブランドから国産に切り替えたとき、最初はメタリックの仕上がりに戸惑いました。ブランド選びは、日々の仕事の「快適さ」に直結するんです。
鈑金塗装の現場では、塗料ブランドの選択が仕上がりの品質、作業効率、そしてコストに大きく影響します。にもかかわらず「昔から使っているから」「先輩に言われたから」という理由だけで選んでいる職人さんも少なくありません。
この記事では、国内で広く使われている溶剤系自動車補修塗料の4大ブランド——関西ペイントのレタンPGハイブリッドエコ、日本ペイントのnaxレアル、ロックペイントのプロタッチ、イサム塗料のアクロベース——を、現役の鈑金塗装職人である私・なかまるが現場目線で徹底的に解説します。
カタログスペックだけでなく、実際に使って感じた「癖」や「使い分けのコツ」まで、包み隠さずお伝えします。
- 4大ブランドそれぞれの強みと弱点
- ブランドを切り替えたときに起きやすいトラブルと対処法
- 溶剤系塗料の将来と、今から考えておくべきこと
なぜ今も溶剤系塗料が現場の主役なのか
環境規制の強化とともに、自動車補修塗装の世界でも水性塗料への移行が進んでいます。それでもなお、多くの現場で溶剤系が使われ続けているのには、明確な理由があります。
乾燥スピードの速さは、ブース回転率に直結します。水性塗料は乾燥に温風乾燥機が必要なケースが多く、設備投資と光熱費がかさみます。一方、環境対応型の溶剤系1液ベースコートは、既存の設備をそのまま使いながら高い生産性を維持できます。
操作性の安定感も見逃せません。長年、溶剤系で腕を磨いてきた職人にとって、スプレーガンを握ったときの「霧の広がり方」や「乾きのタイミング」は体に染み付いた感覚です。塗料が変わるだけで、その感覚が大きくズレることがあります。
さらに、設備の初期投資が不要という経営的な現実も大きい。特に規模の小さい工場では、水性対応の乾燥設備を導入するコストがハードルとなっていることが多いのです。
ただし、これはあくまでも「現状の話」です。溶剤系の未来については、記事の後半で改めて触れます。
国産4大ブランド・現場目線の深掘り解説
① 関西ペイント|レタンPGハイブリッドエコ
「1液の手軽さで、2液に迫る品質を実現する技術派」
レタンPGハイブリッドエコの最大の特徴は、IPC(イソシアネート浸透硬化)テクノロジーにあります。
通常、1液塗料は硬化剤を使わないぶん、2液型に比べて塗膜の強度や付着性で劣ると思われがちです。しかし、このIPCテクノロジーにより、上塗りの「ハイブリッドエコ専用クリヤー」に含まれる硬化剤がベースコート層まで浸透。1液でありながら、2液型に匹敵する塗膜強度と付着性を実現しています。
高ソリッド設計による垂直面での高いタレ止め性能も現場では高く評価されています。一度に厚みをつけやすく、隠蔽力が高いため、塗り回数を減らしたい忙しい現場に向いています。
私自身は乗用車の補修では普段使っていませんが、大型車の塗装にはレタンPGエコフリートを使用しています。大型ボデーの広い面積を塗る際には、効率と品質のバランスを考えたとき、関西ペイントのラインナップは選択肢として非常に有力です。
② 日本ペイント|naxレアル
「塗り回数を劇的に減らす、超高濃度設計の時短塗料」
naxレアルの核心は、「リアルディスパージョン技術」による超高濃度の顔料設計にあります。一般的な塗料に比べて材料使用量を大幅に削減できるとされており、隠蔽が早く、少ない塗り回数で仕上げることができます。
ブースの回転率を上げたい工場や、大量の案件をこなすリペア専門店にとっては魅力的なスペックです。
ただし、希釈比率の管理が非常にシビアです。公式の総合希釈レンジは30〜80%と他ブランドより全体的に低め。さらに使用する希釈剤の種類や色種(ソリッド/メタリック/3コートパール等)によって希釈比率の変動幅が大きく、目分量での管理は通用しません。このブランドの力を最大限に発揮するには、正確な計量が絶対条件です。
また、ボカシの際に「ブレンダー」を先に塗装するウェット・オン・ウェットの技法が推奨されています。高濃度ゆえにボカシ際が立ちやすい特性があるため、慣れるまでに少し時間がかかる可能性があります。
③ ロックペイント|プロタッチ
「全国どこでも手に入る、職人を選ばない定番ブランド」
プロタッチが業界に広く普及している理由は、そのボカシのしやすさと安定した仕上がりにあります。スプレーミストのなじみが良く、シルバーやパールのムラが出にくいため、初心者から熟練者まで幅広く使いやすいブランドとして知られています。
乾燥が早いのも特徴ですが、その速さゆえに夏場の大型塗装ではドライスプレー(ザラつき)が発生しやすいという弱点もあります。夏場は「遅乾型シンナー」を選ぶことがプロのセッティングの基本です。
全国どこでも塗料販売店で入手しやすく、スマートフォンアプリによる配合データの更新も業界でトップクラスの速さを誇ります。地方の工場でも安定して仕入れられる点は、現場の安心感につながります。
④ イサム塗料|アクロベース(私のメイン塗料)
「安全性と調色精度を両立する、環境対応の実力派」
私が現在メインで使っているのが、このアクロベースです。
もともとはシッケンズのオートベースプラスを長年使っていました。仕上がりの安定感と発色の美しさに満足していましたが、コスト面での負担を考えてイサム塗料のアクロベースへ切り替えました。
切り替え直後に感じたのは、メタリック系の色をボカす際に、ボカシ際がわずかに黒ずみやすいという感覚です。シッケンズとは微妙に塗り方の「さじ加減」が違い、最初の1〜2ヶ月は慣れるのに少し時間がかかりました。これはブランドの「癖」の違いであって、アクロベースの品質が劣っているということではありません。どんな塗料でも、切り替え直後には自分なりのセッティングを見つけ直す作業が必要です。
慣れてからは、アクロベースの「カラー工房」による豊富な実車配合データに助けられることが多くなりました。調色の精度が高く、迷いが減ります。
また、アクロベースは特定化学物質(MIBK、エチルベンゼン等)を含まない安全性の高い成分設計を採用しており、作業者への健康リスクを抑えたいという職人にとって安心感があります。
4大ブランド徹底比較表
| 比較項目 | レタンPGハイブリッドエコ | naxレアル | プロタッチ | アクロベース |
|---|---|---|---|---|
| 最大の強み | IPC技術で1液+2液品質 | 超高濃度で材料を削減 | ボカシやすさと普及率 | 安全性と調色データ量 |
| 推奨クリヤー | 専用ハイブリッドエコクリヤー | naxクリヤー各種 | マルチトップクリヤー | アクセルクリヤー |
| 希釈率の傾向(色種・工程で変動) | 色種・1液/2液で大きく変動。2コートメタ/パール1液:80〜120%、2コートソリッド1液:60〜100%。3コートパールは工程ごとに別管理 | 公式総合レンジ:30〜80%。使用希釈剤・色種によって変動幅が大きい | 標準仕様:80〜120%。低VOCハイソリッド仕様:50〜70% | 標準は40〜60%中心。3コートパールのパールベースのみ60〜100% |
| 塗装難易度 | 普通(安定感重視) | やや高い(要慣れ) | 低い(初心者向き) | 低い(なじみ良し) |
| 注意すべき弱点 | 専用クリヤーが必須 | 計量の精度が問われる | 夏場のドライスプレー | ブランド切替時の慣れが必要 |
※希釈率はソリッド・メタリック・2コートパール・3コートパール・使用シンナーの種類・1液/2液仕様・標準/HS仕様によって大きく変動します。実作業時は必ず各メーカーの最新TDS(塗装仕様書)を確認してください。
現場で絶対に知っておきたい技術ポイント3選
A. 「専用シンナー」を使わなければならない本当の理由
「シンナーはどれでも同じでしょ」と思っているなら、それは大きな落とし穴です。
環境対応型の1液塗料には、シンナーの中に樹脂を安定させる成分やメタリックの並びを制御する成分が含まれています。安価な洗浄シンナーや他社のシンナーを混用すると、乾燥バランスが崩れるだけでなく、PRTR法の届出対象外という環境性能も失われます。法規制上のリスクにもつながりかねないため、必ず各ブランド指定のシンナーを使うことが鉄則です。
B. 3コートパールで「層間密着不良」を防ぐプロの技
1液塗料の弱点の一つが、3コートパールの施工におけるパール層を厚塗りした際の層間密着不良です。
これを防ぐために、多くのメーカーでカラーベース(下塗り)やパール層に3〜10%程度の強化剤(硬化剤)を添加する方法が推奨されています。再補修時のチヂミ防止にも効果的なので、3コートパールの案件では積極的に活用したいテクニックです。
C. 溶剤系の将来と、今から考えておくべきこと
溶剤系塗料は、欧州ではすでに厳しい使用規制が設けられており、日本でも同様の流れが来る可能性が高いと私は考えています。
環境規制の強化はもはや避けられない方向です。だからこそ、今から水性塗料への移行を意識し、準備を進めておくことが重要だと思っています。特に、これから塗装を一から覚えようという若い職人さんには、最初から水性塗料で技術を身につけたほうが、将来的に楽になる可能性が高いとアドバイスしたいくらいです。
現在使っている環境対応型の溶剤塗料は、VOC排出の意識を高め、計量の大切さを学ぶという意味で、水性移行へのよいステップにもなります。今の現場を守りながら、次のステップを見据える——それがプロとしての現実的な姿勢ではないかと感じています。
よくある質問(Q&A)
まとめ:あなたの現場に合った塗料の選び方
4大ブランドをまとめると、以下のように整理できます。
- 品質と安心感のバランスを重視するなら → レタンPGハイブリッドエコ(専用クリヤーとの組み合わせが前提)
- 圧倒的なスピードと材料コスト削減を狙うなら → naxレアル(正確な計量管理が必須)
- 誰が塗っても安定した仕上がりを求めるなら → プロタッチ(夏場のシンナー番手に注意)
- 安全性と豊富なデータで調色精度を高めたいなら → アクロベース(ブランド切替時は慣れ期間を設けること)
どのブランドにも一長一短があり、「絶対的な正解」はありません。近隣の塗料販売店のサポート体制、自分のブースの設備環境、そして日々の案件の傾向に合わせて選ぶことが、最終的には仕上がりのクオリティと作業効率の両立につながります。
まずは一つのブランドを使い込み、その「癖」を体で覚えること。それが、塗装職人としての腕を磨く最短ルートです。

ブランドごとにこんなに違いがあるとは思わなかった。切り替えのときはちゃんと試し塗りしてから本番に入ることが大切なんですね。

そうです。私もシッケンズからアクロベースに変えたとき、最初の数ヶ月は正直戸惑いました。でも使い込むうちに自分のセッティングが決まってきて、今は不満なく使えています。塗料との付き合い方も、職人の腕のうちですよ。

